夕日は目に痛かった。はずだった。
いまの私の目には歪んで、見えて、いやそうでもないかも。
光は途切れず私に届く。
「コウは、すごいね」
なんとなしに、なんとなく、ついて出た言葉だった。
コウはなにも言わずに夕日を眺めている風にいた。
この丘はお気に入りだった。太陽に透かされた緑を見るのが好きだ。
小さく色の様々な花が草の隙間から覗くのをみるとなにか、特別なものにであった気になるのだ。
緑は昨日までの雨を吸って独特の、気持ちの悪くない匂いを放っている。


彼がこの家に来たのは真冬の白雪がごおごおとこの国を蔓るとても、とても寒い日だった。
孤児だったらしい、棄迷児、というものらしいが、詳しくはわからない。
この家の頭の、私の父の白いセーターをちいさい体に羽織ってもこもこさせながら、ぎゅうとそれを握り締めながら私の目の前の椅子に座り縮こまっていた姿を覚えている。
鼻筋はスーっと通っていて鼻の先が少しツンとしている。こりゃあ将来美人さんになるなあっと思ったものだった。
でもやはり、孤児院という場所にいたからなのだろうか、私より6つ下の5歳6歳になろうものなのに、年相応の体の大きさではなくて、手足も長い、というよりひょろながいという印象だった。温かいものをなにか、食べさせてあげたい。
よろしくね、と私も寒さで凍えた声でいったけれど返ってくる言葉はなかった。(あとで一時的だが声がでない病気を患っていたと父から聞いた。)
父はなんだってこの子を連れてきたのだろう、不満などはなかったけれど子供心に不思議に思っていた。
瞳はいつか見たような、灰色の瞳だった。

父の手は大きくて、厚い皮が固くてあったかい、熱い手だった。
私はその手で撫ぜられるのが大好きだった。彼も好きだったのだろう、あの小さなドールから持ってきたような表情が崩れるのをはじめて見たときはびっくりしたものだった。
崩れるといってもきっと私みたいに彼をずっとみているような人にしかわからない変化だったのかもしれない。
大きいけれど少しきゅっと上がった目尻がふにゃふにゃと下がって、温度のないみたいな真っ白な雪みたいな頬もぽぽ、と少し色づくのだ。
それを我慢するみたいに口がむむっと噤まれるのだけれど。

彼は多分、本を読むことが好きだったのかもしれない。
多分、しれない、というのは彼にとっての暇つぶしが本を読むようなことくらいしかなかったこと、好きだったというのは読書をする彼の目が時偶輝いて見えたから。
彼は本を読むときその場で固定された模型のように動かない、ニス塗りされたみたいに潤った瞳と、頁をめくるためだけに動かされる腕と指の動きだけがその時、彼が生きていると確証させてくれる要因になるのだ。


つらいってなんだろうねって思う。

この人の方が辛いから、大変な思いをしてきたからとか。
なんだろうね。
そう云う言葉がパワーの源になったりする人もいるんだろうけれどさ。
なんだろうなあ。

今現在の私は私以上にきっと辛い人がいるんだろうなあとか思っていたりするんだけど、
私 以上ってのは なんだろうな。

私がその経験をしたらもっと今よりつらいって意味なのかね。
なんで自分自身でわかってない言葉吐き出して不思議に思わないんだろ。
あっばかだから!



だって私のこれは運命で 彼の(私の憧れの人)人生今の人生もきっと運命なんだからと考えてみる

運命=偶然 ね。
定められた必然とかじゃないから・・・
そうゆう意味の言葉なんだけどさ。

そういう運命という言葉を偶然ととり必然としてとるということしか私にはできないよ。

これは神様の決めた必然的なできごとなのだ!とか真顔では言えない。そう言う人を批難、馬鹿にする類の言葉ではなくてさ。
私のぐらぐらさを馬鹿にしてるんだけどさ。
馬鹿にしながらも私はこうでしかいられないから、ほこりなどはもってないけれど私は私を持っているよ。

愛されないとは。

青年Sのひとりごと


なんだかな 

期待をしないでねってことばがね
すっごい耳に残ってるわけですね

ばばあちゃんだからとか そうゆうこと
ぬきにしたりできるか 今の状態じゃ全く自分でもわからないわけですよ

あとね あいつは一応 ちんこてきに僕のおとうしゃんなわけなんでさ
もしさ、僕を愛していたり、すこしでもたいせつにおもってくださってるならさ
あっちからアクションとるのって当たり前なのではないの

僕は白黒つけたいタイプなので そう思うね。
君のアクションなんてまったく期待なんかしないふりを続けるね。
僕ののぞみがなんであろうと、そこで思っとかないとさ
きみはさ ちんこだけなんだよ わかった?
ちんこだけなの

悲しみは海ではないから飲み干してしまえる。


「なくなった!!なくなったよ」

ある朝イヴァンは大きな声で彼に呼びかけた。
二つ並んだ寝台の片方に眠るアルビノとさえ疑ってしまうような色素具合の青年、ギルベルト。





「僕には何もないんだ」
ある少年はいった。常時なら白いほっぺをさむさで真っ赤にさせながら。
「それは、」
「どれ?」
「その、マフラーだよ」
ああ、これ。少年はそういったきりしばらく黙り込んだ。
もう一方の赤い瞳の少年はどうしてしまったのかと、少年の伏せられたアメジストを埋め込んだみたいにきらきら光る瞳を覗き込もうとした。
きらきら、光っている。
覗き込んだまま、少年は自分の時が止まったように感じられていた。
だか、その静寂はアメジストが、いや、アメジストからぽろりと何かが落ちたと同時にハッと動き出す。
何かは、雪の溶けて手のひらに乗っかったのと同じようなものに見えたのだけれど、なんだか違うようだった。
「それ、涙って言うんだぜ。知ってた?」
「ええ、そんな、涙って悲しい時に出るものでしょう」
そうするとようやっとアメジストの彼から目を離しケセ、と奇妙な笑い声を出してから「あったかいときにもでるって俺は知ってるぜ」とも言ったのだった。